phelan: stepping in
30代ゲイのつれづれ日記.行き先不明で迷走中!
マンガ濫読: 『蝉時雨のやむ頃』
やー 最近マンガ読んでばっかりッス.

ゲイ系ポータルでマンガの話の ping ばっかり飛んでも困ると思うんで,しばらくそちら方面に ping 飛ばすのはやめておきます.

で,迷った末,今回感想を書くのがこちら.

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃
吉田 秋生
小学館 (2007/04/26)

『BANANA FISH』『ラヴァーズキス』で有名な吉田秋生の,新シリーズ.どうやら連載はまだ続いているようで,これはその最初のコミックス(第1巻).

ネット上でも結構評判が良かったんで,迷った末買ってみた.

感想は [続く] エリアで.

ちと,厳しい感想になってしまうんで,気軽に好意的感想だけ読みたいファンの方は,クリックしない方が安全かもしれません.(上述の,感想を書くかどうか迷った,というのは,こういう意味です)




『蝉時雨のやむ頃』★★(★5つが満点)
あらすじ 鎌倉に住む3姉妹.すでに両親を失っていた彼女たちは,それぞれ成人した今も一緒に暮らしている.そんな彼女たちの恋・家族・生活の模様を,1話読み切り形式で描き出す.

 吉田秋生といえば,押しも押されぬ人気作家だし,この作品もかなり評判がいい.その作品に対して,星2つとは一体何事!?  と思う方も多いだろう. 僕も,自分でも,書いていてそう思う(苦笑)

 というか,実はこの作品は予想を裏切らずそこそこ面白かった.本来なら,最低でも星3つ(★★★),もしかしたら4つ献上してもいいくらいだと思う.実際,この作品が誰も知らない新人作家により描かれていたら,僕は迷わず星4つをつけていただろう. しかし,これはあの「吉田秋生」の作品なのである.あの『BANANA FISH』の,吉田である. そして,吉田の新しい作品に対しては,僕は,どうしても譲れない点がひとつだけあった.

 それは,過去の作品からの脱却だ.

 『BANANA FISH』の成功のあと,意図的にせよそうでないにせよ,吉田は自分の創り出した世界に囚われてきたように僕は思う.『BANANA〜』の次に世に送り出した『YASHA』は,『BANANA〜』の直接の後編ではないが,一部のキャラを共有し,世界観を同じくした. そこまではまだ許せたが,さらにその後の連載『イヴの眠り』は,完全なる『YASHA』の続編である(ただし,視点は変えてある).

 連載誌の意向もあったのかもしれない.このところ漫画界では,新連載でうまいテーマを探しあぐねた作家が,かつての成功作の世界へと回帰していく傾向が強い.結局『僕の地球を守って』の世界へと戻った日渡早紀,『生徒諸君!』の続編を書くことになった庄司陽子. これらの続編を,単体の作品として楽しみにしている人も一杯いるのだろうが,僕にはどうしても,かつての成功作の残り香に頼って安全な「売れる作品」を作ろうとする商業主義の匂いが拭えないように思われる. そしてこのところの吉田の一連の連載も,どうもそんな空気を感じていたのだ. (ご本人はそんなつもりはなく,純粋に,深化する世界観を楽しんでいただけかも知れないが)

 さて,そこでこの『蝉時雨〜』である. この作品については,ネット上の評判で,いよいよ『BANANA〜』から始まった一連の世界観から途絶した新シリーズに入ったと聞いていた. 上のような怪訝な気持ちを持っていた僕には,それは願ってもない朗報だった. 純粋に,この人の描き出す「新しい世界」を見たい,と思った. それで,この作品を買ってみた.

 ■■ 注意: 以下,少しネタバレあります ■■





 だが,その期待は,第1話で早速裏切られた.

 次女,さちが付き合っている男の名前が「朋章」.黒髪の,いい男. デジャヴ?  いや,そうではなかった. フルネームは「藤井朋章」.  そう,あの,『ラヴァーズ・キス』の中心人物だ.

 断っておくが,この作品は決して『ラヴァーズ・キス』と世界観を共有してはいない.色々な恋愛の色彩を描き出した傑作,『ラヴァーズ〜』に比較して,『蝉時雨〜』は,恋愛だけでなく家族愛,友情,そしてその中のほろ苦い喪失感をテーマとした,より複雑な色彩の漫画だ. 作者が,無駄には齢を重ねなかったことを感じさせてくれる作品だ.

 だからこその,「何故!?」なのだ.

 何故,いまさらこの作品を,『ラヴァーズ〜』とリンクしなければならない? 何故,登場人物を共有しなければならない?

 舞台までもが,またしても,鎌倉だ.(まあ,キャラを共有してるから,当たり前なんだけど)  何故,この話が鎌倉でなければならない? 作者が好きだから?

 実は,僕は湘南育ちで,鎌倉も,徒歩圏内でこそないが,子供の頃から数え切れないくらい遊びに行って,よく知った街である.(もっと湘南の地理をよく知った人向けに言うなら,僕は,鎌倉と,江ノ島を挟んで反対側の街で育った.) 鎌倉,あるいは七里ヶ浜など,江ノ島〜鎌倉の土地の空気は,確かに独特のものである. いつかあそこに住みたいと,率直に思わせる切ない土地である. (「美しい」でも「楽しい」でもなく,僕にとっては,「切ない」) 僕も,あの海岸線が大好きだ.

 だけれども・・・だからこそ,鎌倉,あるいは七里ヶ浜は,数々の文学・漫画で散々使い倒されてきた. あの『スラムダンク』ですら,あの空気を引用する誘惑には勝てなかった! もちろん,吉田自身による『ラヴァーズ・キス』もである.

 強弁であることを恐れずに言うなら,要するに,鎌倉という土地,あるいは湘南の海岸線は,引用するのにラクなシンボルなのである. そこさえ引いておけば,一定の空気が作品に備わるという,そういうシンボル. もちろん,1000年の歴史を持つ鎌倉は,そう容易く消費されるほど浅い街ではない. 僕が言いたいのは,その深さに,ややもすると安易に頼ろうとする作家の浅さなのだ.

 なぜ,吉田は『蝉時雨〜』で,またしても自分の作品を,過去とリンクさせることを選んだのか?  なぜ,吉田は舞台を「鎌倉」という安牌に選んだのか?  なぜ? なぜ? なぜ?   この作品の,とりあえず第1巻を読み終わって,僕の胸中を去来するのは,こうした「なぜ?」ばかりだ.

 僕は,吉田秋生という作家が好きだ. 『ラヴァーズ・キス』は,その吉田の作品群の中でもダントツに好きな作品だ. そして上に書いたとおり,生まれ育った湘南エリアにある七里ヶ浜〜鎌倉エリアも,とても大好きなところだ. さらに付け加えるなら,この『蝉時雨〜』という作品そのものも,決してキライではない.   だけど・・・僕には,これらの要素がリンクしてほしいようには,思えないのだ. 作者,吉田には,そんな「安全な要素」なんて無くても,僕らが見たこともないような,それこそ『BANANA FISH』のような世界を見せてくれる才能が,まだ潜んでいると信じているから.

 正直に言おう.
 『蝉時雨〜』はとても面白い. だけど,僕は吉田のこんな漫画を読みたくはなかった.

 まだ,可能性は残されていると思う.
 わざわざ第1話で過去とリンクさせたことが,その先に潜む見たこともない世界への伏線であると,そのための分かりやすい「ひっかけ」なのだと. 吉田は,続く第2巻で信じさせてくれるのだろうか?

 ここを読んでくださった方には,星2つ(★★)という評価は,その期待のために屈めた身だと思っていただきたいと思う. やがて第2巻,第3巻と,いい意味で予想が裏切られ,歓喜のもとに星を増やしていくための準備なのだと. 僕は,そう思いたいと思っている. 散々僕らを裏切り,じらしながら,それでいて未だに僕らを惹き付けて止まない,吉田秋生という作家のためにも.
コメント
この記事へのコメント
すでに読んでたんですね。
Phelanさん、こんにちは。
『YASHA』エントリーに続けてのコメントです(この記事は最初見つけられなかったので)。『海街diary』はすでに読んでたんですね…。
この作品に関するPhelanさんの感想は私とは逆だけど、私はPhelanさんのような感想があってもいいとおもいます。この作品に朋章を登場させたことの意味については、自分のブログに私の意見をいれときました。
   ☆    ☆    ☆
それはそれとして、Phelanさんのブログ、コミックのこととか、おもしろい記事がたくさんありますね。またよらせてもらいますね。
2007/12/12 (水) 11:25:10 | URL | 闇太郎 #tmBa20pk[ 編集]
はい,あくまで俺のはひとつの見方ってことで.

今後ともぜひご笑覧下さい.
2007/12/12 (水) 23:53:57 | URL | phelan #PzIm/G5U[ 編集]
まだこれから
上の記事、もう一度読みかえしてみて、Phelanさんの、「わざわざ第1話で過去とリンクさせたことが,その先に潜む見たこともない世界への伏線であると,そのための分かりやすい「ひっかけ」なのだと. 吉田は,続く第2巻で信じさせてくれるのだろうか?」という書き方、意味深だとおもいました。
たしかに、『海街diary』は連載がはじまったばかりですから、全体の評価をするにはまだ早すぎるかもしれませんね。
そんななかでのこれからへの期待感ということでは、私もPhelanさんもわりと似たようなところに立っているのかなとおもいました。

2007/12/14 (金) 01:28:30 | URL | 闇太郎 #tmBa20pk[ 編集]
そうですね,なんだかんだ言って,完結するまで買い続けるのは間違いないと思います.

名作になるとよいですね(^^)
2007/12/17 (月) 00:45:53 | URL | phelan #PzIm/G5U[ 編集]
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